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竹の子書房【七夕企画】へのおはなし [オリジナル小説]

私が所属している竹の子書房では、季節ごとの企画本が出るんですが、今回は七夕がテーマです。

いつもはツイッタで流しているのですが、今回はちょっと長めということで、こちらで^^;

しばしお付き合いいただけると幸いです。

 

「未来へ」

 

この夜が明けたら、僕たちはまた違う場所を目指す。
それが分かっているから、いま、この手を離したくないんだ……

卒業後初めてのデートは、最終列車を待つことから始まった。
大雨でダイヤが乱れているらしい。
到着時刻を過ぎても、ホームに電車が入ってくる気配はない。
「大丈夫かな……」
改札口で時計を見上げながら、宙(そら)は呟く。
お互いの気持を確かめられずに過ごした三年間より、思いが通じてからのここ数ヶ月のほうが、ずっと待っている気がする。
そして、いまのこの時間はさらに密度が濃い。
早く会いたい、その気持だけで全身が満たされているようだ。
こんな風に北斗を待つ日がくるなんて、考えたこともなかったな……
宙の顔が泣き笑いに歪む。
高校に入学して初めて言葉をかわしたあの日から、宙の心は北斗に囚われたままだ。
夜空を源にもつ名前、それだけが二人の共通点だった。
内気で人付き合いの苦手な宙と違って、北斗は常に人の輪の中にいた。
何か特別に秀でたものがあるわけではなかったが、誰に対しても友好的で正直な北斗は、多くの友人達に受け入れられていた。
少なくとも宙には、そう思えた。
常に一歩引いているような宙に対しても北斗の態度は平等で、それを好意と勘違いしているのだと、ずっと思っていた。
だから苦しかった。
日々を重ねるごとに、宙の中にはごまかしきれない恋情が降り積もっていたから。
なにげない瞬間、北斗の姿を追っている自分に気づいたとき、宙は絶望に泣いた。
クラスメイトとしてそばにいることさえ許されないのかと、北斗に恋している自分自身を呪った。
こんな気持を知られたら、一緒にいることはできない。
そして宙は心を殺した。
想いの成就を諦めるかわりに、ただの知人として傍らにあることを選んだ。
学校に行けば北斗の姿を見ることができる。
言葉を交わすこともあるかもしれない。
自分の気持ちに蓋をして想いを雪いでいれば、こがれる苦しみからも開放されるだろうと。
北斗から告白されるその時まで、そう思っていた。
卒業式が終わったあと、せめて最後に北斗と過ごした場所を目に焼き付けておこうと、一人教室に戻った。
そこで宙が目にしたのは、自分の机に指を滑らせる北斗の姿だった。
いままで見たこともない、うつむいて打ちひしがれたような北斗の姿に胸が詰まった。
同時に、もう二度と会えないのかもしれないという事実に気付かされる。
北斗の進学先は東京に、宙は地元に残ることが決まっていたから。
「北斗……」
三年間、声に出すことはなかった名前が唇からこぼれる。
それは解放の呪文だった。
宙にとっても、北斗にとっても。


もの想いに沈む宙の耳に、列車の到着が告げられる。
改札口から吐き出される、一様に疲れた表情の乗客の中に北斗の姿を見つけた。
声をかけようとして臆する宙に、北斗も遅れて気づく。
それまでのどこか大人びた顔が、子どものような笑顔になったと感じて、宙はようやく一歩を踏み出す。
「おかえり」
「ただいま」
駆け寄って抱きしめることなどできない。
代わりに北斗の荷物をひとつ受け取り、宙はもう一度「おかえり」を言う。
ありったけの気持ちを込めて。

「北斗?寝ちゃったか……」
降り続く雨に、夜景を見に行くというプランは果たせなかった。
そのかわり宙の部屋で、会えなかった時間を埋めるようにしゃべり倒した。
メールも電話もするけれど、好きな人を目の前にして直接声を聞くのはそれとは全く違う。
何ものにも隔てられず同じ時間を過ごしているということが、奇跡のようで愛おしい。
誰かと…北斗とこんな夜を過ごすことなど、以前の宙には考えもつかなかっただろう。
雨音に閉じ込められた部屋に二人きり。
眠る北斗の顔を見ていると嬉しくて、そして切ない。
もっとずっと一緒にいたい。
いろんなコトを体験して、笑って泣いて語り合いたい。
遠くにいすぎて喧嘩もできないふたりの距離が悲しい…
「ヤバ…」
こみあげてくる想いに宙の呼吸が乱れる。
疲れて寝てしまった北斗を起こさないように、目を閉じて祈るような気持ちで宙は泣くのをこらえる。
かわりに北斗の背中に耳を寄せた。
宙よりもずっと高い体温、規則正しい鼓動に心のなかが安らかになる気がする。
今度はいつ会える?なんて、普通のカップルのように甘えることは宙にはできなかった。
お互い自分の将来や夢のために、いまは別々の道を歩んでいるのだから。
たった一晩の逢瀬。それを叶えるために北斗が来てくれた。
それだけでいい。
それが、宙と北斗の選んだ恋の形なのだから。
すきだよ、自分に言い聞かせるようにつぶやいた宙の声は、北斗に届かなかったとしても。

駅の構内に飾られた笹には、色とりどりの短冊が揺れていた。
雨上がりの風に舞う色紙には、きっと様々な想いが綴られているんだろう。
「実家には寄らないの?」
宙の言葉に北斗は苦笑する。
「家に寄るために帰ってきたんじゃないからな」
お前のためだけだよと暗に告白されたようで、宙は顔を赤くする。
「これ、結ぼうか?」
メモ用紙にビニール紐を通しただけの短冊を手に、北斗はそう言った。
『宙とたくさんデートできますように』
『いつまでも同じ気持でいられますように』
そして言葉で付け加える。
「宙がいつも笑顔で過ごせますように」
北斗の指が、宙の頬をつまんで持ち上げる。
人前でそんなふうに触られたのは初めてだった。
にじんできた涙をこぼしてしまわないように、宙は精一杯目を見開く。
「今度はゆっくり会えるようにする。待っててくれるか?」
うなずくのが宙の精一杯だった。
それを確かめるように、北斗はメモ用紙の短冊を宙に渡して手を降った。
改札を通って一番先のホームに立った北斗は、もう宙を振り返りはしない。
けれど宙に背を向けて、遠くの空を見上げるように背中を伸ばした北斗が同じ気持ちでいてくれることを疑いはしなかった。

おとぎ話の恋人たちがしたような、壮大な遠距離恋愛ができるかどうかなんてわからない。
けれどこの瞬間、世界中の誰よりもお互いを想っていると知ってる。
おなじ未来を見ていることを…知っている。

 

 


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コメント 7

安寿

二人組の男性歌手のPVを見ているような一作……と思いました(〃∇〃)。
等身大の青少年(少年、ではなく、青年、でもなく)の揺れる思いがリアルな手触りです。
ちょっとセンシティブ&優しい音楽が似合いそう☆。
もりかさんの作品は雨が降っても読後感がさわやかです~。
by 安寿 (2011-06-10 18:18) 

もりか

わああ///須藤先生、読んでくださってありがとうございます\(^o^)/
色々思い出しつつ、音楽も!あれこれ試しながら書きました。
雨の降るときも、晴れの日も、一緒に歩んでいってほしいな~と思いながら。
感想いただけて本当に嬉しいです!

by もりか (2011-06-10 20:13) 

黒実操

ワンポの前に号泣させられたんですが、どうしてくれやがりますかwww

彼らは当然、二次元の存在ですが、確かな息遣いを感じます。
幸せは自ら築くものなのよねぇ…と、しみじみ思いましたよ。
by 黒実操 (2011-06-11 19:22) 

有川 憂

さすが……きゅんの伝道師には勝てませんwww
何でこんなにいつも甘酸っぺぇぇぇ! のですか! w
もりかさんのお話を読んで、きゅんを特訓中ですw
by 有川 憂 (2011-06-11 22:08) 

もりか

あ、可愛らしいお話書いてたクロミミ嬢!
いらっしゃいませ!
ありがとうございますm(_ _)m
結婚というゴールのない恋を、真面目に考えてみました^^

耽美派きゅんの有川さんいらっしゃいませv
なんでって、それは「自分がしてもらいたい」妄想だからでしょうかwww
苦しみましたが、楽しんでいただけて嬉しいです^^

by もりか (2011-06-11 23:58) 

MaDrine

ため息ばかりついてしまいました。
私には到底たどり着くことのできないところにいらっしゃる。
胸を締め付けるような想いが文字から立体になって伝わってくるようです。

>夜空を源にもつ名前、それだけが二人の共通点だった。
この一行だけでキューンとしました。
また勉強になりました。また来ます!トォウ!
by MaDrine (2011-06-13 22:28) 

もりか

MaDrine嬢 読んでくださってありがとうございます!
きっかけってささいなことだと思うんですおね。
恋に堕ちる言い訳にもならないくらい。
そこを見ていただけるなんて嬉しいです。
そんなMaDrineたんにきゅんとします^^

by もりか (2011-06-14 09:39) 

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